自毛筆を完成を目指し猫との生活を試みたが、あと一息のところで完成を逃してしまう。涙を拭いボクは自毛筆を探すため自転車で旅に出た。
目的地など決めず一心不乱に自転車のペダルを漕ぎ続け7日が過ぎた頃、自身の肉体は限界を超え、自分と世界の境界線がなくなりはじめた。
『なぜ自毛筆ができない』
いつのまにか僕の身体がこの言葉に支配され、僕の意識は完全に乗っ取られていた。自分が死んでいるのか生きているのかわからないままではあったが
『なぜ自毛筆ができない』
という言葉が、とっくに限界を迎えている僕の身体を動かしている事がなんとかわかった。旅はまだ続いてるのだ。自毛筆を探す旅が。
自分で始めた旅を、自分でやめることが出来なくなった今。僕はこの言葉に身を委ねてみることに決めた。もう何日たったかわからない。僕は僕である事を忘れかけていた。
肉体とは別のところで僕の意識は暗闇に包まれていた。意識だけの僕はなんとか目を開けてみようとするが、一向に開こうとしない。
『違う違う。そうやってみるんじゃないよ』
突然どこからかとても小さな声が聞こえた。
『ほらまた。君は僕の声を耳で聞こうとしてる。』
僕は『誰や!』と言おうとしたが声は出なかった。
『違うよ。やり方が全部間違ってる。全部思うだけでいいんだよ。この世界は想いの強さで生きていくのさ』
意味がわからなかったが、僕は目で見ようとするのをやめ、耳で聞こうとするのをやめ、口で喋ろうとするのをやめ、思った。
声の主に会いたいと。
その瞬間、僕の意識の周りが光輝き、その光に色がつき始め、その声の主が現れた。
その主はとても筆に良く似ていた。
『やっと会えたね』
『僕は君が生み出す自毛筆だよ』
『ココの世界はね。想いの強さで生きる世界なんだ。君は筆づくりに失敗し、絶望のうちに旅を続けてココにたどり着いた。君は闇に包まれあと一歩のところで消滅するところだった。自毛筆ができないという言葉に飲み込まれかけてたんだ。でも、かすかに残っていた君の自毛筆がつくりたい、自毛筆に会いたいという想いが、僕をココへ呼んだのさ。さあもとの世界にお帰り。僕が道をつくってあげるから。』
そういうと、筆は空間に円を描き、そこにトンネル状の道みたいなものができた。
『このトンネルをくぐり元の世界へ帰る。そう思うんだ。とびきり強くね。』
僕は思った。その瞬間に僕の意識がそのトンネルに吸い込まれていった。
トンネルにまさにすいこまれる瞬間、筆はこう言った。
『じつはね!君の世界も本当はここと一緒なのさ!また会おう!』
目覚めると僕はサンフランシスコにいた。サンフランシスコは雨が降っていた。ここがサンフランシスコだとわかったのは、あの有名なゴールデンゲートブリッジがあったからだ。思えば遠くへきたもんだ。
自転車でサンフランシスコを巡り、様々な出会いがあった。僕はもう前の僕ではない。日本に戻ろうと決意した。
ゴールデンゲートブリッジ
ゴールデンゲートブリッジを走る僕
サンフランシスコの町並み(坂が多かった)
サンフランシスコの猫(みーちゃん)
戻る前に詩を一つしたためた。
雨のocean road
目の前の空気をかき分けて シャカシャカ僕は進んでく
島から島へのオーシャンロード
橋から橋へのレインボウ
向かいからくるウインドブロウ
青色吐息のサイクルロード
DONG DONG 曇天模様
DONG DONG 曇天模様
言ってるそばから 空から ポツリポツリ
僕は強く思う方向に自分の舵を取る事に決めた。
それが自毛筆完成への近道なのだ。
だから僕は