キャッとしちゃう

『ネコ科の一番小さな動物は最高傑作である』 レオナルド・ダ・ヴィンチ

自毛筆作成に取り憑かれている僕は、まず原材料に注目した。

この場合原材料とは『筆は元来、何の毛が使われているか?』ということだ。

『筆 原材料』でググる。今の世の中は本当に便利になったものだ、こうやって知りたい情報がすぐ手に入るのだから。

■筆の主な原材料

イタチ毛

タヌキ毛

羊毛

馬毛

………。これはだめだ。

僕は深くため息をつき、静かに涙をこぼした。

僕の考えはこうだった。

自分の髪の毛をより筆へと加工しやすいように、筆の原材料となる動物を寝食を共にしつつ、観察。そして、その動物の特性、習性を盗み取り、自分の中に吸収。果てはその動物となり生活することにより、毛も生え変わり、筆の原材料を自毛として入手するという算段であったのだ。

まず、馬や羊は飼えない。自分のカフェには馬や羊にくつろいでもらう場所がない。あったとしても、そんなカフェには客は来ないだろう。盲点であった。

タヌキはどこにいるかわからない。イタチはこの前、道ばたで2匹もみたが、僕が引くくらいめっちゃ喧嘩をしていて、あんな獰猛な動物は飼えないと思った。盲点であった。

僕の筆づくりは暗礁に乗り上げた。前回抜錨したばかりなのに。握りしめたアイフォーンを再度涙目で見つめ直し、画面を下にスクロールしてみた。下にスクロールすると、まだ画面の続きがあり、ひきつづき筆の原材料を紹介していた。盲点だった。

【玉毛(ネコの毛)】

毛は細くて柔らかいのですが、ねばるような弾力があり、小筆の仮名細字用の筆(猫毛筆)に使われます。

これだ!!!!!

僕は歓喜し、高らかに笑い声をあげた。

猫ならば、飼っている人も多いし、先ほどの僕の考えを実行するにはうってつけの人(猫)材である。

様々な縁により、僕の所に一匹の猫がやってきた。

名前を『とらじろう』と名付け、共同生活が始まった。

『こんにちは!ボクとらじろう!』

元気な子猫だね

前足がかわいいね

何の夢をみてるのかな?

軽い頭が大好きさ!

サッカーにも夢中だよ!

遊び疲れちゃったかな?

『キャッとしちゃう』 深田和良

 

宝石のような瞳をもって

天使のような仕草と容姿

 

ねずみのおもちゃがお気に入り

狂ったように遊んじゃう

 

ボクの身体を駆け上がり

頭の天辺ですぐ遭難

 

困ったところも多いけど

可愛さアドバンテージはまだまだあるよ

 

キャッとしちゃうな

キャッとしちゃうよ

 

どうにも、この作戦は失敗したようだ。『とらじろう』を何かに利用するなど考えられない。

僕は自転車で旅に出る事にした。